最後のジャパメタ:SIAM SHADE
SIAM SHADEというバンド名を見たり聞いたりすると、どういう曲が思い浮かぶだろうか?(そもそも若い世代は彼らの存在を知らない可能性が高いが、そういうケースは除外する)
おそらく大半の人は「1/3の純情な感情」を思い浮かべるだろう。彼らの最大のヒット曲である、素晴らしいメロディーを持ったポップ・ロック・ソングだ。この曲の知名度があまりにも高いため、中にはこの曲しか知らず、彼らのことをV系の一発屋と思っている人もいるだろう。
非常にもったいない。彼らにはもっともっと凄い魅力があるのだ。
彼らをまともに聴いたことがない(特にHR/HM界隈の)人達に向けて声を大にして言いたい:SIAM SHADEはジャパメタであると!
ざっくりと彼らのキャリアを説明すると、
- アマチュアHR/HM時代(POWER名義)- 1989〜1990
- アマチュアHR/HM時代(atæru名義)- 1991〜1993 *途中でV系化
- V系+HR/HM時代(ここからSIAM SHADE)- 1993〜1995
- HR/HM+J-ポップ時代 - 1995〜2002 *2002年3月10日解散
という形で変化している。どの時代もHR/HMが音楽性に含まれているのがポイント。V系バンド扱いされる割には、V系的な化粧をしていた期間はかなり短い。音楽性、そして前身バンドの結成時期を見ると、彼らは"最後のジャパメタ"と呼ぶに相応しい存在だと思う。*1
デビュー前の彼らの変化については、こちらの記事がわかりやすく書かれているのでオススメ:
意外なまでに硬派でヘヴィ
メジャーデビュー後の彼らの音楽性は基本的に変わっていない。ポップなメロディーにテクニカルな演奏。そのバランス次第でポップなシングル曲になったり、ヘヴィなアルバム曲になるという形。一般的にはやはりポップなシングル曲のイメージが強いかもしれないが、彼らのアルバム曲やカップリング曲を掘り下げると数々のHR/HM的名曲が出てくる。演奏もめちゃくちゃ巧い。
というわけでHR/HM的にオススメな楽曲を紹介していく。
Don't Tell Lies(1996)
SIAM SHADEのライヴではまず外せない定番曲であり、(ファンにとっての)代表曲。シンプルでストレートなギャング・コーラスが彼らのハードな曲の醍醐味だが、この曲は特に叫びたくなる。
D.Z.I.(1998)
こちらもライヴでは外せない定番曲。2002年の解散ライヴでもラストに演奏された。疾走感も抜群だし、漢臭いギャング・コーラスが力強い。
Allergy(1999)
彼らの演奏能力の高さが一発でわかる変拍子の塊のような曲。各展開がスムーズだから聴き手としても振り落とされない。後半のスラッシュ的な疾走パートが特にかっこいい。
GET A LIFE(2000)
疾走感が気持ちいいパンクとハードロックをかけ合わせたような曲。ライヴ映えとはこの曲のためにある言葉だと言いたくなるぐらい盛り上がる。
隠れた技巧派
ヘヴィな楽曲以外に、比較的ポップな楽曲にも彼らは高等な演奏テクニックを盛り込んでいる。曲全体の雰囲気がキャッチーな上、アレンジによる曲の展開が自然なため、さらっと聴けちゃうが、演奏に集中すると物凄く難しいことを演っているというパターンが多い。
ブランコ(1998)
イントロからいきなり変拍子。2分を過ぎた辺りから怒涛の凄テク。それなのにサビは切なく爽やか。まったく癖の強い印象を受けないのが彼ららしい。アウトロで数秒間だけ激しくなるのも素晴らしい。
せつなさよりも遠くへ(2000)
疾走感溢れるキャッチーでポップなシングル曲。特筆すべきは、DAITAのギターフレーズがほぼ全編を通してタッピングで構成されている点。ギター・ソロと違って目立つような弾き方ではないので全く違和感が無いが、冷静に聴いてみると本当にすごい。
DREAMLESS WORLD(1995)
決して派手ではないが、要所要所でリズムが変則的。特に淳士のドラムが地味にテクニカルなフレーズを披露していている。
Shangri-la(2000)
軽快なノリのハードロックだが、ギター・リフがどんどん変拍子で展開していく。"地味に難しい"とでも言うべき。個人的にはギター・ソロもそうだが、1巡ごとにフレーズが変化していくアウトロに毎回鳥肌が立つ。
ドラマチックな展開
SIAM SHADEには長尺曲は無いが、展開が多い曲はいくつもある。上記の変拍子要素などを活かし、ドラマチックな展開で魅せる。
Shout out(1998)
前半はずっしりとしたミッドテンポだが、中盤から疾走。そこからの展開が素晴らしい。まさに"感情の爆発"や"魂の叫び"と呼びたくなる曲。
MOON(2000)
ざっくり言うと歌モノ。ただ、ここでも変拍子君が大活躍。全体的に"ちゃんと聴くと凄い難しくない!?"となる演奏。特にギター・ソロとアウトロが異常。なんでライヴで普通にこんなキッチリした高速ユニゾンが演奏できるのか意味がわからない。
極めつけのインスト曲
SIAM SHADEは4thアルバムから各アルバムに1曲インストゥルメンタルの楽曲を収録している。どの曲も展開、テクニック等を見ても楽器隊の凄さがこれでもかと発揮されている。これをライヴで再現どころか音源を超えるような演奏で披露するから脱帽。最後にこの3曲を紹介する。
Virtuoso(1998)
メタル的にも非常に興奮するかっこいいフレーズが詰め込まれた曲。 ↑のライヴ映像ではDAITAがギターで(自分のパートに加えて)本来キーボードで弾いているフレーズも演奏しているうえ、冒頭にスパニッシュな雰囲気のギター・イントロが追加されている。全体的にドラマチックだが、特に3分20秒あたりからの展開が素晴らしい。4分16秒〜37秒のリズム隊の寸分の狂いもないシンクロ具合に鳥肌が立つ。
Solomon's Seal(1998)
こちらはどちらかと言えば幻想的で荘厳的な雰囲気の曲。↑のライヴ映像は「THE 武道」と呼ばれる、「Solomon's Seal」をベースに新たなパートやギター・ソロ、ドラム・ソロを追加したもの。長いが、個人的には「THE 武道」がよりオススメ。
Triptych(2000)
こちらは全体的に明るい雰囲気で、シリアスになりがちなインスト曲にもかかわらず、陽気な気分にさせてくれる。↑のライヴ映像ではメタル的な疾走パート等が追加されている(元の映像作品ではドラム・ソロが含まれているが、この動画ではカットされている)。
これらの系統の楽曲以外にも、パンク寄りな曲や、ファンキーなハードロックなどもこなしている彼らの魅力は「1/3の純情な感情」1曲に到底収まるものではない。
全国のHR/HMファンの皆様方、こんなに素晴らしいバンドがいたんです!
掘り下げてみませんか?
↓紹介楽曲プレイリスト
メタル寄りの初心者へオススメのアルバム↓
記事中で使った映像が収録されている作品↓
SIAM SHADE V8 START & STAND UP LIVE in BUDOKAN 2002.03.10 [DVD]
- アーティスト:SIAM SHADE
- 発売日: 2003/12/17
- メディア: DVD
*1:もちろん、その後も今も国産のメタルバンドは多く登場しているが、"ジャパメタ"と呼べるのは80年代のスタイルをリアルタイムで奏でた、もしくは直接受け継いだ世代のみだと思う。