V系とラウドロックの架け橋:girugamesh
前置き
ヴィジュアル系(V系)は音楽ジャンルではなく文化だ。V系というくくりに入っているバンドには、ポップなものからゴリゴリのデスコアを奏でるバンドもいる。それらを"同じ音楽ジャンル"と言い張るのは無理がある。V系に属するバンドたちをそこに束ねているのは、"メイクしている"という大まかな共通点(これにも例外があるのでややこしい)と、(度合いはバンドによってさまざまだが)所謂"V系的"などこかヌメリ感があるくせの強い歌唱法や、ダークな世界観だけだ。つまり、V系と呼ばれているバンドであっても、(当たり前だが)音を聴いてみないと音楽性は解らないのだ。"V系だから"という感じで食わず嫌いする人もいるが、良質なバンドが非常に多いシーンであるのは間違いない。
ラウドロックという言葉は和製英語で、海外では通じない。日本では、メタルコア、デスコア、ラップメタル、ニュー・メタル、オルタナティブ・メタルなどを総表する言葉として使われていて、時にはより正統派なメタル・サブジャンルも含まれることがある。実際のところ、"激しいロック"を奏でるバンドならとりあえずラウドロックと呼べば問題ないという風潮があり、メディアでも細かいジャンル名は無視して全部ラウドロックというカテゴリに入れられることが多い。
ここで本題へ。この2つの音楽シーンは長い間全く交わらなかった。似た音楽性のバンドがいるにも関わらず、中々合同のライヴなどが実現しなかったのには諸説あるが、"ファンの文化・ノリの違い"が大きいと思う。この溝は今でも埋まったとは言えず、ラウドロック×V系のライヴがあるとSNSでマナーの議論が繰り広げられることがあるあるになっている。(残念ながら解散してしまったが)そんな2つのシーンの架け橋となりつつあったV系バンドがいる。
girugamesh(ギルガメッシュ)
彼らは、V系ならではのダークさに漢臭い日本語詩、そしてラウドロック(初期はニュー・メタル。中期はラップロック/ラップメタル。後期はメタルコア。)をかけ合わせたサウンドで人気を博したバンドで、色褪せない名曲の数々を残している。すでに解散してしまったバンドなので、新たに音楽ファンの耳に触れる機会が少ないと思う。
おすすめ楽曲紹介
鵺-chimera-(2016年)
結果的に最後のアルバムとなってしまったミニアルバムの表題曲。初期の彼らを彷彿とさせるダークさとニュー・メタルっぽさに、2013年以降培ってきたメタルコア要素を組み合わせたヘヴィ・チューン。この曲が出た約半年後に解散してしまったことを考えると歌詞が非常に痛ましい。。。
お前に捧げる醜い声(2006年)
何度も再録されている、初期からのライヴの定番曲。SlipKnotの影響を感じさせる、無理やり突き進むような激しさ。サビでのコール・アンド・レスポンスが気持ちいい。
INCOMPLETE(2013年)
ジャンプしたくなるようなリズムが特徴的なミクスチャー・ロック。キャッチーさも良いし、ブレイクダウンにベースのスラップ・フレーズが入っているのが非常にかっこいい。
evolution(2008年)
それまでのニュー・メタル的ヘヴィネスに新たにエレクトロ要素を加えたサウンドを展開した名盤『MUSIC』収録曲。こちらもライヴの定番曲で、このバンドを代表する曲でもある。シンプルな演奏だが、後半のブレイク後の爆発力が半端じゃない。
volcano(2007年)
珍しい"ビデオ・シングル"という形でリリースされた曲。KornやMUCCを想起させるズッシリとしたヘヴィさが特徴的。↑のMVは原曲だが、2014年にリリースされた『LIVE BEST』に収録されている再録バージョンの方が何倍もかっこいい(『LIVE BEST』に収録されている曲は全部原曲よりかっこよくなっている)。
Jarring Fly(2006年)
1stアルバム『13's Reborn』収録曲。V系的なダークさにヘヴィネスがいいバランスで混ざり合っている。サビのメロディーがもつ熱さはこのバンドが最後まで誇った強い武器だと思う。
gravitation(2014年)
2014年リリースのミニアルバム表題曲。メタルコア・サウンドにギルガメらしいポジティブで元気が出るような日本語詩が組み合わさっている、後期の代表曲。ブレイクダウンも素晴らしい。
I think I can fly(2009年)
4thアルバム『NOW』収録曲。エモーショナルな歌唱が前面に出ている曲。ただ、ヘヴィさも要所要所で登場し、非常にかっこいいギター・リフが聴ける。ターンテーブルのスクラッチ音が挿入されているのも耳を引く。
COLOR(2010年)
彼らのアルバムで唯一、大幅にポップスに寄った作風となった5thアルバム『GO』収録曲で、シングルとしてもリリースされた曲。確かにめちゃくちゃポップだが、ちゃんとヘヴィなリフも入っている。よく『GO』は駄作扱いされるが、言うほどポップスに振り切っているとは思わない。新たにバンドに触れる人は是非色眼鏡なしで同作も聴いてみてほしい。
Drain(2013年)
活動休止期間を経て、新たにメタルコアを武器として取り入れた6thアルバム『MONSTER』収録曲。ブレイクダウンを筆頭に素晴らしいヘヴィさ。この手の楽曲にしては珍しくシャウトが無いが、それが結果的にこの曲の個性になっている。この曲をきっかけにラウド系のファン層にも注目を浴びるようになった。
Vermillion(2007年)
2ndアルバム『girugämesh』のリード曲。 力強いアップテンポなビートに、情熱的な歌唱が引き立てられる。個人的には特にサビの壮大さが素晴らしいと思う。
壊れていく世界(2007年)
力強いバラード寄りの曲。冒頭の民族的なリズムが耳を引く。全体的に非常にエモーショナルな曲で、終わった後の余韻がすごい。
Never Ending Story(2011年)
問題作『GO』の楽曲の中で珍しくライヴの定番曲となった、メロコア調の疾走曲。歌詞だけ見れば少々クサイ恋愛曲だが、曲調のおかげでちょうどよく感じる。ライヴではサークル・モッシュが発生していた。
slip out(2016年)
とにかく冒頭から破壊力が凄まじい。暴力的という言葉が似合う、重低音の塊。問答無用で暴れたくなる。
Break Down(2008年)
3rdアルバム『MUSIC』のリード曲で、バンドを代表する曲の一つ。ライヴでも定番曲で、凄まじい一体感と多幸感を生み出す曲だった。この曲以降、girugameshはポジティブな楽曲を書くことが多くなった。
基本的に激しい曲調を軸としつつ、ポップさやダークさを曲によってバランス良く取り入れていて、 いろいろなスタイルのヘヴィ・ミュージックが違和感なく聴けるバンドだった。特に、ここまで自然にキャッチーな日本語詩をメタルコア的サウンドに組み込むことができたのは彼らならではだと思う。近年の所謂"夏フェス"に放り込んでも余裕で観客を湧かせることができたはず。だからこそ解散があまりにも勿体なさすぎる。いつまでも復活を待っているバンドの一つ。
ロック好きのみなさん、騙されたと思って聴いてみてください!
↓紹介楽曲プレイリスト
オススメのアルバム↓