2020年 下半期ベスト20(アルバム・ミニアルバム編)
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年間ベストのまとめはこちら。
夏〜秋頃にはライヴが制限付きで再開できる雰囲気となり、少しずつではあるが音楽業界にも光が見えたように思えたが、12月現在、再び暗雲が立ち込めているのが状態となっている。いろんな意味で気持ちを振り回されているが、上半期と比べてアーティストもファンも多少はこの状況に慣れてきている印象がある(良くも悪くも)。
自分はサブスクやYouTubeなどを使ってアンテナを広く張り、新たなアーティストとの出会いを少しでも増やそうとした。
- 20位:Carcass『Despicable』
- 19位:WANDS『Burn The Secret』
- 18位:ヤなことそっとミュート『Beyond The Blue』
- 17位:Gulch『Impenetrable Cerebral Fortress』
- 16位:PassCode『STRIVE』
- 15位:SLOTHREAT『THEMIS』
- 14位:Fit For A King『The Path』
- 13位:葉月(lynch.)『葬艶-FUNERAL-』
- 12位:-真天地開闢集団-ジグザグ『ハキュナマタタ』
- 11位:Eskimo Callboy『MMXX』
- 10位:BUCK-TICK『ABRACADABRA』
- 9位:Mr. Bungle『The Raging Wrath of The Easter Bunny Demo』
- 8位:DEXCORE『[METEMPSYCHOSIS.]』
- 7位:私立恵比寿中学『エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020』
- 6位:SUSHIBOYS『SUSHIBOYSの騒音集VOL.1』
- 5位:Ailiph Doepa『Plasma 〜The World〜』
- 4位:Ailiph Doepa『Exormantis』
- 3位:NOCTURNAL BLOODLUST 『The Wasteland』
- 2位:Crystal Lake『The Voyages』
- 1位:Bring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』
20位:Carcass『Despicable』
"リヴァプールの残虐王"の約6年ぶりとなるミニアルバム。その血生臭いブルータルさとクサいギターは相変わらず健在。本来ならアルバムが今年出るはずだったが、コロナの影響で来年へ延期となったため、代わりにアルバムから漏れた楽曲を集めた本作が先にリリースされることになったのだが、正直ボツ曲集とは思えないクオリティーだ。
19位:WANDS『Burn The Secret』
もともと名前とヒット曲を数曲知っている程度だったが、今年に入って圧倒的な勢いでブレイク中の個性派V系バンド"-真天地開闢集団-ジグザグ"のヴォーカル命と、WANDSの現ヴォーカルの上原大史が非常に親しい存在()だと知り、興味を持ったのがきっかけで聴いてみたのが本作。これがまた大当たりで、いい具合に90年代を想起させるメロディーや楽曲構成が近代のアニソンやV系と混ざったかのようなキャッチーな新曲たちはどれも楽しめる。往年の名曲も上原のヴォーカルで新たな魅力が顕になっている印象。
18位:ヤなことそっとミュート『Beyond The Blue』
シューゲイザーやグランジを中心とした音楽性のアイドルグループ。以前から数曲知っていたが、本作が非常に評価が高いことを知り、聴いてみたら納得のクオリティーの高さ。世界観の構築が巧いというか、楽曲のアレンジ(特に空間の奥行きを感じさせる音の使い方)が素晴らしい。メンバーの歌唱は、個人的にはちょっと形容し難いが、ディーバ系というよりは"か弱い女の子が、その弱さを保ったまま歌唱力を身につけた"ような歌い方で、それが絶妙に楽曲に合っている。
17位:Gulch『Impenetrable Cerebral Fortress』
ここ数年でカルト的な人気を得ているカリフォルニアのハードコアバンド。1曲が短くコンパクトだが、展開が多い。とにかく暴れ倒したくなるような破壊力を持った楽曲たちが詰め込まれてる。実際自分も彼らに興味を持ったのは、たまたま目に入った↓のライヴ映像におけるバンドと観客の暴れ具合に衝撃を受けたから。全8曲で約15分という聴き疲れしない長さなのも良い。
16位:PassCode『STRIVE』
メジャーデビュー後のアルバムの中では一番メロディアスな要素が強く出ている。ただ、PassCodeのサウンドの基礎であるエレクトロニコアは相変わらず健在。メロディアスさが強めなことから初心者に勧めやすい作品かもしれない。個人的にはあと1曲ほど強烈にパンチがある曲が欲しかったと思うが、いいアルバムなのには変わりない。
15位:SLOTHREAT『THEMIS』
メタルコア、ポスト・ハードコアの系譜のバンドだが、シャウトやスクリームを使わないのが特徴的。ヴォーカルはV系バンドを彷彿とさせる、少し癖のあるハイトーンボイスを駆使しているが、それによって独特な雰囲気を楽曲に与えている。個人的には数年前に解散したV系バンドSick.のヴォーカルに近いものを感じている。非V系でこういうタイプのヘヴィ・ミュージックを奏でるバンドはかなり異質なので、今後にも期待したくなる。
14位:Fit For A King『The Path』
Crystal LakeのRyoが「God of Fire」にフィーチャリングで参加しているのがきっかけで聴いてみたアルバム。骨太さ、メロディアスさ、王道さのバランスがちょうどいいメタルコアを聴かせてくれる。「God of Fire」の破壊力や、「The Path」のどこか切なさを感じるメロディなど、聴きどころが多い。
13位:葉月(lynch.)『葬艶-FUNERAL-』
以前からソロライヴを何度か開催しているlynch.のヴォーカリスト葉月のソロ・デビュー作。オリジナル2曲、lynch.のセルフカバー3曲、そして影響を受けた/リスペクトしているアーティストのカバー6曲を収録。Pay money To my Painの名曲を新たに日本語詩で再解釈した「Another day comes」や、女性ヴォーカル曲に男性ならではの色気を加えている「水鏡」(原曲:Cocco)と「月のしずく」(原曲:柴咲コウ)が特に素晴らしい。楽曲のアレンジも、太鼓などを使用したり、意表を突く要素が多い点でも聴き応えがある。全体的に葉月の歌唱力と表現力の高さが存分に発揮されている。
12位:-真天地開闢集団-ジグザグ『ハキュナマタタ』
マジメな曲からネタ曲までの幅広い曲調を高い演奏力と歌唱力で奏でる個性派V系バンド。今年に入って大ブレイクした印象があるが、自分は少しそれに乗り遅れた部分がある(だから上半期ベストにアルバム『慈愚挫愚 弐 ~真天地~』が入ってない)。「Requiem」のようなシンプルにかっこいい曲から、「拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~」というふざけ倒している可愛らしい曲まできっちり入っていて、ジグザグの良さが凝縮されたようなミニアルバム。
11位:Eskimo Callboy『MMXX』
いろんなアーティストがコロナ禍における社会情勢などの影響を受け、シリアスやダークな作品を発表する中、ドイツが誇る自由すぎるパーティーバンドは良い意味でいつも通り(なんならパーティー感マシマシ)。"いろいろ大変だけど、とりあえずバカ騒ぎしようぜ"とでも言っているような新ヴォーカルNicoが加入しての最初のアルバムだが、前任より遥かに巧い彼が加わったことにより、ふざける部分はより面白く、シリアスでエモーショナルな部分は説得力が増している。このバンドにぴったりの人選だと思う。
10位:BUCK-TICK『ABRACADABRA』
2014年の『或いはアナーキー』以降、デジタル要素強めで比較的ダークな作品を発表し続けてきたが、ここに来て比較的明るめな雰囲気のアルバムを投下。近年培ってきたデジタル要素はそのままに、光が見えるような空気感をまとった作品になっている。過去の作品の中では『COSMOS』や『ONE LIFE, ONE DEATH』のような作品を"今のBUCK-TICK"が改めて制作した感じ。近年のダークさが好きな人なら少し物足りないかもしれないが、個人的には久しぶりの"光"が感じられるアルバムに新鮮味を覚えた。
9位:Mr. Bungle『The Raging Wrath of The Easter Bunny Demo』
ジャンルの壁なんか最初から存在しないかのような音楽性で人気を博した伝説的なエクスペリメンタル・ロックバンドが20年ぶりに再結成。ここまでならそれほど珍しい話ではない。Mr. Bungleは結成当初はスラッシュ・メタルバンドで、その音楽性で当時デモテープもリリースしている。今回の再結成はなんと、彼らが人気になった理由そのものである実験的な音楽性を完全に封印し、"初期のスラッシュメタル時代の曲のみをやる"という制限付きのもの。頭がおかしいと言いたくなるが、一周回って彼ららしいとすら思えてくる。新たにAnthraxのScott Ianと元SlayerのDave Lombardoというスラッシュメタルを代表するミュージシャンを布陣に加えて制作されたのが本作。ものすごく悪い音質でしか出回っていなかったスラッシュメタル時代の楽曲を初めてちゃんとした形でレコーディングし、カバー曲を加えたもの。2020年とは思えないくらい80年代のベイエリアの香りが漂っていて最高。
8位:DEXCORE『[METEMPSYCHOSIS.]』
V系メタルコアの注目株が満を持してリリースしたファーストアルバム。バージョンによってはもう1枚過去の楽曲を再録したディスクが付属するという太っ腹ぶり。Crystal Lakeの影響を強く感じるヘヴィさ(実際に「Cibus」にはRyoがフィーチャリング参加している)とV系ならではのメロディセンスが、どちらかに極端に寄るわけではなく、絶妙なバランスで混ざり合っているのが彼らの良さだと思う。Paleduskとともに今後の日本のヘヴィ・ミュージックにおいて重要なポジションを担うバンドになっていくと思う。
7位:私立恵比寿中学『エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020』
ダンスを封印し"歌"にフォーカスを当てる秋の恒例ライヴを収録したライヴアルバム。もともと観客は着席指定で声出し及びペンライトの使用を禁止されているため、今のコロナ禍にぴったりの公演とも言える。ただでさえアイドル界屈指の歌唱力を持つ彼女たちの"歌"を堪能できるのが非常に心地よい。「スターダストライト」や「まっすぐ」は生バンドによる新たなアレンジが新鮮に聴こえるし、もとからバンドサウンドの楽曲たちはそのままパワーアップした印象。中盤に各メンバーがソロで歌うカバー曲も収録されているが、それぞれの個性が爆発していて聴き応え抜群。柏木ひなたによる「Wonderland」(原曲:Iri)は本家に引けを取らないくらい本格的なR&Bを魅せてくれるし、安本彩花による「金木犀の夜」(原曲:きのこ帝国)では彼女の大きな武器であるエモーショナルな歌唱が光る。真山りかによる「ノーダウト」(原曲:Official髭男dism)、星名美怜による「タマシイレボリューション」(原曲:Superfly)、中山莉子による「愛のために」(原曲:奥田民生)は系統は違えど、どれも彼女たちの持つパワフルさが存分に発揮されている。トドメは小林歌穂による「糸」(原曲:中島みゆき)。普段の天真爛漫さとは比べ物にならないくらい、まるで何かが憑依したかのように曲に入り込んでいるのが伝わってくる。こういう個人の新たな1面も楽しめるのが本作の良さの一つだと思う。
6位:SUSHIBOYS『SUSHIBOYSの騒音集VOL.1』
2人編成になってからは楽曲のコミカルさが少し減ってきているが、その分純粋にかっこいいと思える曲が増えている。トラックのバリエーションが豊富なのが聴いていて楽しいし、相変わらずFARMHOUSEのラップはえげつない上手さ。サンテナもどんどんメロディを担当することが増えているが、彼の声質に合っていると思う。約25分というコンパクトさのおかげでサラッと聴ける。ロック好きとしてはやはり「DA-DA-DA」や「LOUD」のようなアップテンポな曲が一番刺さるが、「幽霊です」みたいな比較的チルい曲もかなり癖になる。
5位:Ailiph Doepa『Plasma 〜The World〜』
"Dark Side"(これまで通りのヘヴィさ)と"Bright Side"(今まで楽曲の中に散りばめられていたポップ要素)をテーマにした2枚のアルバムを同時にリリースするという衝撃の戦略を打ち出してきたドーパ。この『Plasma 〜The World〜』がBright Sideの作品で、ヘヴィな要素は比較的鳴りをひそめている。だからといって物足りないことなんて全くなく、なんならヘヴィさに隠れていた彼らの真の変態性が前面に出ているとも言える。キャッチーだし、意味わからない部分もあるし、腹が立つくらいオシャレだったりもする。こういう路線のドーパも全然有り。
4位:Ailiph Doepa『Exormantis』
こちらがDark Sideの作品。こちらはまさに慣れ親しんだドーパそのものという感じで、意味がわからない楽曲構成、暴虐的なヘヴィさ、妙に耳に残るメロディライン、絶妙に誰も予想が出来ないような楽曲テーマやタイトル。どれをとっても"これぞドーパ"。実力とセンスが無いと確実に作れないような音楽。自分はヘヴィ・ミュージックの方がより琴線に触れるので、こちらを上位にしたが、『Plasma 〜The World〜』とセットで聴くのがベストだと思う。
3位:NOCTURNAL BLOODLUST 『The Wasteland』
これぞ復活作!本当に色々ありすぎたバンドだが、今年に入って新ギタリスト2名を迎え入れ、やっと再び動き出した。メインコンポーザーが入れ替わっているので当然だが、かつてのV系デスコア的側面はだいぶ薄まっていて、新メンバーの持ち味であるDjentやモダンなメタルコアの要素が強く出ている。かつてのダークさは無いにせよ、正統派でド直球なヘヴィ・ミュージックを叩きつけるその実力は確かなもの。やっとスタートラインに戻ってこれた彼らの今後に期待しか無い。
2位:Crystal Lake『The Voyages』
Crystal Lakeが日本を代表するメタルコアバンドとして世界的にも知られるようになったのは現ヴォーカルRyoが加入して以降の話だ。よりハードコア色が強い初代ヴォーカルKentaro在籍時の楽曲は、一部を除いて、Ryoが加入してからは実質封印状態だった。個人的にずっとRyoの声で初期の楽曲を聴きたいと思っていた。それがついに実現したのが本作。2000年代中盤〜2010年頃の衝動的で暴力的なヘヴィさを現代の音質や技術で叩きつけてくるのが気持ちよすぎる。
余談だが、今年のRyoはめちゃくちゃフィーチャリングでいろんなバンドの音源に参加しているのが凄いと思う(Spiritboxの「Holy Roller」、DEXCOREの「Cibus」、Fit For A Kingの「God of Fire」)。それだけ引っ張りだこのヴォーカリストが日本のシーンにいるというのは素晴らしいことだと思う。
1位:Bring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』
もはや世界的にロック/メタルシーンにおいてトレンドセッター的な立ち位置を確立しているモンスターバンドとなったBMTH。徐々にメタルコアから離れ、より実験的な音楽性を提示していたが、ここに来て久しぶりにヘヴィなサウンドで勝負を仕掛けてきた。アリーナロック期やポップス期で培った実験性をメタルコアやポスト・ハードコアに落とし込む事によって、唯一無二の独特なヘヴィ・ミュージックを作り上げている。豪華なフィーチャリング・アーティストの中に日本のBABYMETALが居るのが非常に誇らしい。間違いなく、これからこの作品を真似するバンドが大量に出てくると思う。だがそれらが出てくるころにはBMTHはさらに先に行っているだろう。
詳しい感想はこちらのレビューを参照:
まとめ
1. Bring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』
2. Crystal Lake『The Voyages』
3. NOCTURNAL BLOODLUST『The Wasteland』
4. Ailiph Doepa『Exormantis』
5. Ailiph Doepa『Plasma 〜The World〜』
6. SUSHIBOYS『SUSHIBOYSの騒音集VOL.1』
7. 私立恵比寿中学『エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して「ちゅうおん」2020』
8. DEXCORE『[METEMPSYCHOSIS.]』
9. Mr. Bungle『The Raging Wrath of The Easter Bunny Demo』
10. BUCK-TICK『ABRACADABRA』
11. Eskimo Callboy『MMXX』
12. -真天地開闢集団-ジグザグ『ハキュナマタタ』
13. 葉月(lynch.)『葬艶-FUNERAL-』
14. Fit For A King『The Path』
15. SLOTHREAT『THEMIS』
16. PassCode『STRIVE』
17. Gulch『Impenetrable Cerebral Fortress』
18. ヤなことそっとミュート『Beyond The Blue』
19. WANDS『Burn The Secret』
20. Carcass『Despicable』